数学的にありえない
数学的にありえない
Improbable

【著者】 アダム・ファウアー
【訳者】 矢口 誠
【出版】 文芸春秋 2006年
【価格】 2200円(上下各)
【形態】 317p,(上) 319p(下), 19cm
【ISBN】 978-4163253107(上) 978-4163253206(下)
【あらすじ】
 大学院生のデイヴィッド・ケインは瞬時に確率を計算できる能力を持ち、それを利用
 してギャンブルに興じていた。だが、同時に彼はてんかんの持病を持ち、ポーカーの
 大事な勝負の時にその発作が起きようとしていた。
 結果としてギャンブルに負けたケインは多額の負債を負ってしまう。なんとしてもて
 んかんを直さないことには社会復帰もままならない。ケインは実験的な治療に参加す
 ることを決意する。
 一方ある研究者が秘密の実験を行っていた。それは脳波を操ることによって未来を予
 言する能力を持つことができるかというものだった。
 政府の秘密機関である科学技術研究所がその研究に目をつけ始める。
 その頃CIAエージェントのナヴァ・ヴァナーは北朝鮮の情報機関への情報の横流しに
 失敗し、再度同じ情報を手に入れる必要に迫られていた。だが突如科学技術研究所へ
 の異動を命じられる。そこでナヴァは実験の情報を手に入れそれを北朝鮮へ引き渡そ
 うと画策する。
 
【一言】
 タイトルに数学的とありますが、数学というより物理の様々な理論が登場します。物
 語は特殊な能力を持つ主人公がてんかんの治療によって別に持っていた能力を開花さ
 せ、それによって狙われるというものです。その能力は怪しい研究者が研究している
 これから起きることを見通せる力なのですが、その力をファンタジーで片付けるので
 はなく、物理の定理を利用して説明しようとしているので、ところどころ読みにくい
 と感じるところもあります。
 物理や数学のトリビアとして読めばよいのかもしれませんが、物理や数学になじみが
 ない人が読むと途中で挫折したくなる可能性が高いと思いました。
 物語はスピード感がありどんどん展開していくので、難しい理論さえクリアできれば
 とても面白いと思います。最後のほうには思い込みをうまく利用したどんでん返しと
 いうか、意外な事実が明らかになり、また素晴らしい運動能力を見せるナヴァの活躍
 などもあり、最後まで一気に読むことが出来ました。
 たぶん、映画化にとても適した小説ではないかと思います。複雑で簡単に理解するこ
 ことができないような理論や主人公の能力、ナヴァのアクションなど、映像で見た方
 がすんなり理解できそうな要素が多くあります。また、読みながら映画のシーンが思
 い浮かぶような所もありました。
 特殊な能力をファンタジーとして描かなかったために、理詰めでも結局信じるかどう
 かを求められているような気がしてしまいますが、深く考えずに読むと楽しめる作品
 じゃないかと思いました。








呪いのデュマ倶楽部
呪いのデュマ倶楽部
The Club Dumas

【著者】 アルトゥーロ・ペレス・レベルテ
【訳者】 大熊 栄
【出版】 集英社 1996年
【価格】 2650円
【形態】 369p, 19cm
【ISBN】 978-4087732566
【映画タイトル】 「ナインス・ゲート」
【あらすじ】
 稀覯本狩猟家のコルソは、ある収集家から悪魔が書いたと言われる「影の国への九つ
 扉」という本の真贋鑑定を依頼される。この本は世界に3つ存在するといわれいるが、
 依頼主はそのうちの一つを所有していた。
 その矢先、世界でも有名な出版者のオーナーが自殺する。その直前に売りに出された
 デュマの「三銃士」の直筆の第42章の原稿を手に入れたコルソの友人が、彼に本物か
 どうかの調査を依頼する。
 2つの仕事を開始したコルソだったが、その途中でコルソは何者かに襲われる。
 コルソはこの2つの書物の裏に何かがあることを感じ取る。
 
【一言】
 ジョニー・デップ主演で映画化された小説です。
 デュマの「ダルタニャン物語」を全て読み終わったら読もうと決めていた作品です。
 この中で、デュマの直筆の原稿のほかに、ミレディーのような妖しい美女が出てきた
 り、ロシュホールのような顔に傷のある男が出てきたりと、デュマの「三銃士」に関
 係のあるような事柄がちりばめられています。
 また、ダルタニャンは実在の人物をモデルにしているといわれますが、モデルとなっ
 他と考えられる何人かの人物の話も書かれています。
 先に「三銃士」や「ダルタニャン物語」を読んでいた方が楽しみは違うと思いますが
 知らなくてもうんちくとして読むことも出来ます。
 物語はどちらかというと「影の国への九つの扉」の方が主体のように思われます。こ
 の本は発禁となり、出版者は処刑されたといういわくつきで、悪魔を呼び出すことが
 できる書物と言われているそうです。
 その本について調べていく先々で人が殺され、コルソ自身も襲われたり追われたりし
 ます。
 コルソは2つの資料を平行して調べているのですが、途中でなぜか2つは関わってい
 ると信じ込み、「影の国への九つの扉」とデュマの関係を探り始めます。
 色々な出来事からそう判断したのだと思いますが、読んでいる側としてはこじつけて
 いるような気がして、なぜ関係があるとしなければいけないのか分かりませんでした。
 また、途中から突然現れ、コルソを守るような女性がいるのですが、彼女の存在もよ
 く分からず、最後まで読んでもすっきりしませんでした。
 映画を見た時に良く分からなかったので、原作を読んだら分かるかと思っていたので
 すが、原作はあまり助けにならなかったようです。
 ただ、稀覯本はそこらにあるものではないので、あまり良く知らなかったのですが、
 どういう扱われ方をしているのかやどうやって出回っているのかが分かり、その点は
 面白かったです。








生かされて。
生かされて。
Left to tell

【著者】 イマキュレー・イリバギザ
【訳者】 堤 江実
【出版】 PHP研究所 2006年
【価格】 1680円
【形態】 372p, 19cm
【ISBN】 978-4569656557
【あらすじ】
 ルワンダ大虐殺を生き抜いた女性の手記。
 イマキュレーは2人の兄と1人の弟、慈愛あふれる両親の元ルワンダの美しい自然の中
 で幸せに暮していた。イマキュレーの家族は少数派のツチ族だったが、種族を意識す
 ることなく生活していた。
 イマキュレーが学校に入ってから偏見を持つ教師によって自分がツチ族であることを
 意識させられ、差別的な政策の下奨学金を取れないなどの不自由もあったが、持ち前
 の頑張りで大学まで進むことが出来た。
 だがその幸せも、想像を絶する虐殺が始まるまでのことだった。
 
【一言】
 ルワンダの虐殺については、その当時に新聞の見出しで見たような記憶がありますが、
 あまり真剣に受け止めていなかったように思います。
 意識的に虐殺が戦争中のことだけではなくても起きている事を知ったのは、映画「ホ
 テル・ルワンダ」の上映運動があった時でした。その後新聞でこの本の著者を知り、
 今まで考えたこともなかったルワンダの虐殺について、知っておきたいと思いこの本
 を読んでみようと思いました。
 ユダヤ人のホロコーストもそうですが、虐殺を生き抜いた人は、奇跡としか言いよう
 がないくらい運がよかったために、死なずに済んだというのが最初の印象でした。
 虐殺を行う人々は、完全におかしくなってしまって、冷静な判断など出来なくなって
 います。その中でほんのちょっとした偶然や幸運が重なって隠れている所を見つから
 ずにすんだり、殺されずに済んだりしたのです。
 まるで映画のような幸運ですが、完全に狂った世界ではそれくらいの幸運がなければ
 生き延びることができないという事実が衝撃的でした。
 イマキュレーの一家はカトリックを信仰していて、イマキュレーが生き延びることが
 出来たのは信仰のおかげでした。
 信仰のおかげと言っても、奇跡が起きて神様が助けてくれたということをいかにも宗
 教的に語るのではなくて、信仰心があったために発狂してしまいたくなるほどの恐ろ
 しい状況や絶望を乗り越えることが出来たということです。
 宗教がからむと、非科学的で奇跡的なことで信仰を表現する物語や映画が多いように
 感じるのですが、イマキュレーの語る話は、信仰を持つことや信仰心ということを、
 現実的なこととして捉えることができ、また素晴らしいものであると感じさせてくれ
 ました。
 虐殺は戦争の中だけでなく、どういうところでも起きる可能性のあることを警告して
 くれた作品でもあります。








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